鈴本演芸場5月下席夜の部 隅田川馬石主任 5月26日(金)

久しぶりの鈴本演芸場の定席夜の部。今日の目当ては隅田川馬石師匠です。何年か前に大山道の会の懇親会に彼を招待して、「大山詣り」往路根多を提供したことがありました。その結果我々の創作した「大山詣り・上」を、初めてプロの噺家さんに取り上げてもらったのです。そんな縁で馬石師匠の動向はいつも気になっています。そして今日はその馬石師匠が主任ということで見に行ったのでした。

鈴本演芸場のホームページを見ると出演者に休演代演が多い。誰が出てくるのか行って見なくてはわからない。でもトリの馬石師匠だけは間違いなく出てくるだろう。そんな塩梅です。

さて着いたらもう開場していました。そして入るとまだ客数はパラパラ。やはり平日の鈴本の夜席はいささか辛いものがあります。いくらトリの演者の実力があっても、テレビに出演するような知名度がないと客の呼び込みは大変ですね。でもこちらは馬石さんの実力を知ってるからこそ来てるのですが。

そして開演だが、鈴本の開演は早い。17時20分頃には前座が開口一番を始めます。今日は柳亭市若さん。名前を見ただけで柳亭市馬師匠のお弟子さんですね。声がよく通る。これまで他の会場ばかりで、久しぶり鈴本。彼の声の質だけでなく音響設備も違うのかもしれません。演目は『手紙無筆』でした。

続いてが金原亭馬治さん。今日はトリの馬石師匠が五街道雲助師匠の一門、ということは師匠を辿ると志ん生まで行きます。馬治さんも金原亭馬生師匠を通して志ん生へ。同じ古今亭のいとこ同士という間柄。今日の演目も『強情灸』ということで、古今亭の色濃い演出でした。

次が漫才のホームラン。そういえばさっきチケットをもぎってもらい、会場へとエスカレータに乗ったところで、コンビの一人が来たところでした。ああ、今日出演があるんだな。でも漫才というのは決まった演目ではないので、終わったら何を喋ってたのか忘れてしまう。通販の話をしていたようだが、わっと笑ってそれでお終い。

そして次が三遊亭歌実さん。ようやく前座修業を卒業して二つ目になったばっかり。嬉しそうに許された羽織を着ていました。出身校が甲子園で有名な鹿児島実業。師匠は同じ鹿児島出の三遊亭歌之介師匠。でも高座で話してるのは江戸弁。最近は地方出身でも、器用に江戸弁とのバイリンガルをこなす噺家さんが多いですね。演目は『六尺棒』。あまり聞くことのない噺でした。

続いては春風亭一朝師匠。この人は江戸弁ネーティブです。演目は『肥瓶』。なんだかその香りが客席まで伝わって来そう。

そして一度幕が降りて再び上がり、アサダ二世さんの手品。寄席の手品はこんなものと言いながら披露する芸は、タネを見せたり失敗だらけ。でも最後に客席を唸らせるというシナリオが組まれていました。

次が柳家甚語楼師匠。持ち時間も制限されてるでしょうから短い噺、『猫と金魚』でした。これは先日亡くなった橘屋圓蔵師匠のが記憶にありますが、もともとこの噺は笑いどころいっぱい。今日も結構ウケていました。

そして仲入り前が柳家小里ん師匠です。久しぶりに見ました。この人も江戸弁ネーティブで、入った噺は『棒鱈』やっぱり仲入前は持ち時間が少し長いので、このような噺をしっかり語れるようです。

赤べろべろの醤油漬け、えぼえぼ坊主のすっぱ漬け、要はヅケ鮪と蛸の三杯酢。普通はついでの添え物の小鉢が、この噺ではなぜか存在感が大きいのです。でもこの噺はよく聞いてると、明治維新で江戸に入城してきた田舎者の薩長の官軍を、生粋の江戸っ子が馬鹿にしてるようにも聞こえます。

仲入りがあって幕が上がると、ストレート松浦さんのジャグリング。翻訳すれば西洋風太神楽と言うべきか。ヨーヨーの芸、赤青黄三色お手玉の芸、ニュードーランドのマオリ族に伝わるという芸。そして太神楽の「長撥の曲」に当たるような二本棒の芸。これらを元気よく見せてくれました。

続いては落語、蜃気楼龍玉師匠です。この人は最近古典の長講モノで鳴らしていますが、今日は時間の関係でできないでしょう。出て来た演目は『ぞろぞろ』。寂れた茶店の爺さん婆さんのやりとりが牧歌的で、何とも言えないものがありました。

そしてトリ前のヒザが林家正楽師匠。この人のパターンは、お題をいただいての前に「相合傘」でご機嫌伺いで、その後会場から声が飛ぶ。今日は「猫と金魚」「朝顔」「日本ダービー」というお題が出てました。さすがに「百一匹わんちゃん」とか「闇夜のカラス」のようなリクエストはありませんでした。

最後がお待ちかね、隅田川馬石師匠です。今日の客席の大半は馬石師匠目当てで来てることでしょう。そして昔あったが今はないものというテーマで廓の話。と言っても馬石師匠の年代では本物など見ているはずはありません。師匠の五街道雲助師匠だって廓世代ではないはずです。

かつて廓話は志ん生が得意としていたもので、古今亭の流派に乗ってる馬石師匠も、師匠から伝承された志ん生流の雰囲気を表現していることでしょう。演目は『お直し』。まさに志ん生の根多そのものでした。

この話に出てくる蹴転(けころ)というのは、吉原のような廓の最下層の店。細く狭く暗い路地に並ぶみすぼらしい店。ヤモリやナメクジが出てきそうな店。貧乏自慢だった志ん生師のような人ならば実感をもって語れるのでしょうが、現代のような衛生状態の良い社会では、語る方も厳しいが聴く方にとってもなかなかイメージができないものがあります。

しかし自分の女房を店に出して客を取らせるという心理は、古今東西変わらないでしょう。ここに焦点を当てるとこの話も現代でも聴かせることができるようになりますね。

トリだから時間も充分ある。今日の馬石師匠もそれを活用して、たっぷり聴かせてくれました。

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