通し狂言 「伊賀越道中双六」国立劇場 3月20日(月)

今月も国立劇場での歌舞伎観劇です。演目は「伊賀越道中双六」、これは有名な鍵屋の辻の、荒木又右衛門の三十六人斬りの場面の出てくる演目です。仇討ち劇です。しかし江戸時代は実名による芝居はご法度、したがって荒木又右衛門ではなく、代わりに唐木政右衛門がでてきます。先の「しらぬい譚」では天草四郎ならぬ七草四郎なる人物が出てきたり、歌舞伎ではこのようならしい名前がよく出てきます。

その唐木政右衛門を演ずるのが人間国宝の中村吉右衛門さん(播磨屋)これが今回の最大の見どころと言うべきか。久しぶりに見る吉右衛門さんの舞台です。

もともとこの「伊賀越道中双六」という噺は、岡山藩士の渡辺数馬が、荒木又右衛門の助太刀を得て、弟の敵河合又五郎を討つという史実が母体になって、人形浄瑠璃になり、講談などで尾鰭がついて荒木又右衛門の三十六人斬りになったそうです。でも史実はそんな大袈裟なものではなかったとのこと。

さてこの「伊賀越道中双六」は通し狂言ということにはなっているものの、完全通し狂言になると丸一日かかるほどの長編です。その中から主要な部分を切り出して、今日の4時間の講演になっていますが、この話の山場は二つあり、一つは「沼津」もう一つが「岡崎」。最近では「沼津」がよく上演され、「岡崎」はあまり取り上げられないということです。

「岡崎」では赤子を刺し殺すという場面があるというのも、これがなかなか上演されることが少ない理由と説明されていました。そして今回は44年ぶりだそうです。

しかし今回はそんな「沼津」を割愛して「岡崎」を中心に構成されたものです。大詰めの仇討ちの場面に至るまで、唐木政右衛門が助太刀に加わるまでの経緯が長いにも関わらず、それを割愛したためにイヤホンガイドでもその間の経緯を懇切丁寧に説明していました。敵討ちが合法だった江戸時代でも、そもそも親ではない親族の敵討ちは簡単には認可が取れなかったといいます。なのでこの劇では、実の父親の仇ということになっていました。待つこと暫し、さて開演です。

     

序幕  相州鎌倉和田行家屋敷の場
二幕目 相州鎌倉円覚寺方丈の場
同 門外の場
三幕目 三洲藤川新関の場
同 裏手竹藪の場
四幕目 三週岡崎山田幸兵衛住家の場
大詰  伊賀上野敵討の場

序幕「相州鎌倉和田行家屋敷の場」では、この仇討物語の発端となる、和田行家(嵐橘三郎/伊丹屋)が沢井股五郎(中村錦之助/萬屋)に殺害される場です。ここでは珍しく中村錦之助さんが悪役で登場しました。そこで額を切られて三日月の傷跡。これが仇のシンボルのようでした。そして今後の展開の仕込みとして、唐木政右衛門の情婦お谷(中村雀右衛門/京屋)も出てきてました。

次の二幕目「相州鎌倉円覚寺方丈の場」、ここでは仇の股五郎が名刀正宗との交換で、佐々木丹右衛門(中村又五郎/播磨屋)にお縄になったと思ったら、謀略で股五郎を取り戻されて逃してしまった。そこに駆けつけた和田志津馬(尾上菊之助/音羽屋)が、唐木政右衛門の助太刀を得て仇討ちをすると誓う場面でした。役者の中村又五郎さんと役柄の澤井股五郎と、同じマタ五郎でいささか混乱です。

35分の幕間があって昼食タイムです。この間イヤホンガイドでは落語家の三遊亭楽生さんの「楽生歌舞伎」。これは歌舞伎ワンポイントレッスンです。楽生さんが素人目線でわかりやすく説明してくれると言うことで、今日の話題は黒御簾の中に何があるか。

面白かったのは音の演出でティンパニーや弦楽四重奏のような西洋楽器が持ち込まれることもあるという事。要は音の出る物なら何でもよいということだそうです。

観客も腹が満たされたら三幕目。「三洲藤川新関の場」は緊張の場面に挟まれた息抜きの場。ここを通りかかった和田志津馬に一目惚れしたお袖(中村米吉/播磨屋)の仕草が可愛い。中村米吉さんの声が、本物の少女そのものです。

そしてここで主役の唐木政右衛門の登場でした。でもここでは関所破りが見つかって、捕らえられそうになったところでうまく逃げ延びる。そのあとがこの物語の中心となる四幕目「三週岡崎山田幸兵衛住家の場」に移ってゆくのでした。

20分の幕間の後が「岡崎」の場。これは長〜い幕で、イヤホンガイドでも、聞く方も体力がいるので覚悟してくださいと言わんばかりでした。

同じ山田幸兵衛住家の中で色々な話が展開してゆきます。山田幸兵衛(中村歌六/播磨屋)はお袖の父親で、お袖の許嫁が沢井股五郎ということで一緒に訪ねた志津馬が又五郎に成り済ましてしまう。話がややこしくなってきます。

次に政右衛門が関所破り取締りの捕手との立回りから、幸兵衛が流派が新影流と見て、やがて姉弟の関係だったことが判明。その後お谷が赤子を抱いて現れて、政右衛門が心を鬼にして追い払うところが、人形浄瑠璃の泣きの芸の見せ所です。それが有名な「煙草切り」の場面でした。

その後股五郎に成り済ましていた志津馬が現れて、幸兵衛に全てが露見し、その時政右衛門が赤子の息子、巳之助を刺し殺すと言う酷い場面。それから幸兵衛が、志津馬と政右衛門の仇討ちを認める立場に心変わりをしたという展開でした。その間1時間半の長丁場でした。

10分の後は大詰「伊賀上野敵討の場」。ここは幕開きと同時に、股五郎の一行を待ち伏せしていた志津馬と政右衛門との一騎打ちの立ち回りが始まりました。これは踊りの型のようなものではなくかなり激しい動きを伴うものでした。それが有名な鍵屋の辻の三十六人斬りで、鉢巻に小柄を挟んでバッタバッタと斬ってゆきました。そして最後に残ったのは股五郎ただ一人。これを志津馬が討ち取って本懐を達成と相成りました。

最後の場は駆け足のように過ぎていって、今日の公演は終わりました。

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